最近、博士の研究が辛くて辞めようか迷ってきた…でも就職できるか不安だし…
博士の中退者ってどれくらいなんだろう…結構レアケースなのかな?
私も博士学生のとき、とくに研究に行き詰ったときに「就活」が頭をよぎったことがあります。
でも、同期が少なく相談できない、世間の博士学生の実態も分からん、既卒就活の情報も少ない…
こんな感じで、精神的にかなり不安定になった時期がありました。
今回は、文部科学省のデータをもとにした博士課程の中退状況や、中退して就職活動するポイントについて解説していきます。
この記事では下記の内容を知ることができます。
中退や既卒就活など、過去の自分と同じように悩む人にとって、少しでも救いになる記事になれば幸いです
それではいきましょう。
博士学生の中退状況
ここでは修士課程と博士課程の中退状況、ならびに国立、公立、私立大学別に、博士課程における中退状況を説明します。
修士と博士の中退率
文部科学省の調査によると、修士課程と博士課程、および専門職大学院での中退状況は以下の通りとなっています。
修士課程 | 博士課程 | 専門職大学院 | |
全学生数 | 121303 | 63374 | 11963 |
中退者数 | 3122 | 3411 | 521 |
中退率 | 2.6% | 5.4% | 4.4% |
専門職大学院とは経営学修士(MBA)などの学位を取得できる大学院のことで、今回の記事ではあまり触れませんが、こちらは4.4%の中退率となっています。
一方、一般的な大学院修士課程の中退率は2.6%、対して博士学生は5.4%と、博士の中退率が高いことが分かります。
博士中退率の5.4%は一見小さな”率”に見えるかもしれませんが、”数”にすると3411人です。
博士の中退はそこまでレアケースではないといえるのではないでしょうか。
国立、公立、私立における博士中退率の違い
続いて、国立大学、公立大学、私立大学別に博士課程の中退率の違いを見ていきます。
同上の報告によると、各大学の中退状況は下のようになっているそうです。
国立 | 公立 | 私立 | |
全学生数 | 46292 | 3630 | 13452 |
中退者数 | 2571 | 231 | 609 |
中退率 | 5.6% | 6.4% | 4.5% |
公立大学の博士中退率が最も高く6.4%、次いで国立大学で5.6%、私立大学で4.5%と最も低くなっています。
国立大学だけでも年間2500人が辞めているんだね…
このデータは「既に中退した人」の回答なので「中退を迷っている人」はさらに多いと思います
博士課程の中退理由とは
では、博士課程を中退する人はどのような理由で辞めるのでしょうか。
同じ文部科学省の調査によると、博士課程の中退理由は下のグラフのようになっています。
「不明」「その他」を除くと、博士課程全体の中退理由1位~4位は下記の通りとなっています。
1位 就職(23.98%)
2位 一身上の都合(17.06%)
3位 学業不振(8.03%)
4位 経済的理由(5.42%)
(このデータでは「一身上の都合」にいろいろ含みがあることや、就職したいから辞めたのか、他の理由による辞めたい気持ちが先にあって就職したのか、就職以外を理由に挙げた人は就職していないのか、など少々読み取りにくい部分もあります)
4人に1人が就職を理由に博士課程を中退している
中退理由の第一位は「就職」で、割合としては23.98%、約4人に1人がこの理由を挙げています。
就職してやりたいことができたという理由の他にも、研究熱が冷めた、教授との相性が悪いなどで就職した人もいると考えられます。
そもそも博士課程を辞める人は、当然ですが修士課程まできちんと修了している人です。
特定分野において優れた専門性を身に着けている証でもあり、たとえ博士中退だとしても、そこまでの研究であらゆる知見、スキルが磨かれています。
人それぞれ差はあるでしょうが真剣に研究に取り組んでいる人なら、ざっとこれだけのスキルが日々鍛えられています。
また中退する人は博士卒人材よりも若いことが多く、専攻分野以外の業界でもポテンシャル採用の可能性が高くなります。
就職を理由に挙げた24%の人の多くは、こうしたスキルや年齢的な強みを生かして就職しているのでしょう。
ちなみに、修士課程を就職の理由で辞める人は36.26%とさらに高くなっていました
学業不振で辞める人は8%
博士課程における学業不振は、研究の進捗が悪く成果が上がらない状況を指すと考えられます。
卒論や修論を提出して学科の先生に審査してもらえれば修了できる学部や博士課程とは違い、博士課程の修了要件には多くの場合、一般学術誌への主著論文掲載といった研究成果をあげることが求められます。
もちろんこれに加えて、博士課程での研究をまとめた博士論文を提出し、修士課程よりも質も高く回数も多い審査(プレゼン、口頭試問、博士論文レビューなど)をクリアする必要もあります。
研究進捗の滞り=成果をあげられない、ということで博士号取得の見通しが立たなくなったために、博士課程に見切りをつけ、次のステップへシフトしようとする人も一定数いるのだと解釈できます。
5.4%は経済的理由で辞める
経済的理由を挙げる人の多くは授業料を払うことが厳しくなった、ということでしょう。
博士課程は基本的に3年間通うことになります。
国立大学の場合、授業料は年間約53万円で3年間通うとなれば187万円、私立の場合はさらに多くの授業料がかかり、相当な金銭的負担を強いられます。
もちろん各大学には授業料の免除制度がありますが、免除には条件が伴うため必ずしもすべての博士学生が授業料免除となるわけではありません。
こうした金銭的な事情から、博士課程を断念した人も少なからずいるのです。
就活を成功させるための5つのポイント
それではさっそく博士課程を途中で退学しても就活を成功させるために押さえるべき5つのポイントを紹介します。
ひとつづつ見ていきますね。
1.中退を前向きにとらえる
博士課程を途中で辞めて就活する場合(卒業後3年以内の新卒枠で就活していたとしても)、中退した理由はほぼ間違いなく聞かれます。
企業としても、採用した後にすぐ辞めないか心配しているのです。
研究が辛かった、人間関係が嫌になった、というようなネガティブな他責理由であったら、企業人事も「ウチに来ても辛くなったらすぐ辞めるのではないか」と採用を躊躇してしまいます。
とはいっても実際のところそういった負の要素が辞めたくなる原因であることもきっと多いでしょう。
そのようなときは、はじめから中退したい理由を無理やり作る必要はありません。
下に示しますが、自分のやりたいことや理想の生き方に思いを巡らせる中で、きっと就職に対する前向きな理由が見つかるはずです。
『中退したいと思った理由』を『○○な理由で就職したいと思ったから中退しようと思いました』という理由に置き換えればよいだけです。これはウソではありません。
自分の気持ちを掘り下げて自責で前向きな理由を探しましょう。
意識的にポジティブな面に着目することで、重い気持ちもすこしずつ軽やかになりますよ
2.既卒枠と新卒枠の両刀使いで就活する
博士課程を中退する場合、既卒と新卒のどちらで就活するべきか悩みますが、結論、企業によって新卒/既卒を使い分ければよいと思います。
というのも基本的に博士課程を途中でやめると修士を修了した既卒者になるのですが、最近では卒業後3年未満であれば新卒として募集する企業も多くあるからです。
つまり、既卒か新卒のどちらかに固定して就活すると企業選びの選択肢を狭めてしまうことになり機会損失になってしまいます。
企業HPの募集要項や応募条件欄を見て、新卒条件にあてはまるなら新卒枠で応募すればよいと思います。
もし募集要項からでは新卒か既卒のどちらで応募すればよいかわからない場合は、採用ページのお問合せフォームなどから人事に直接確認して教えてもらいましょう。
3.自己分析と企業分析をしっかり行う
就活の1歩目は自己分析です。
これまでの人生・経験を振り返り、自分の強みやスキル、どんな業界で何をしたいのかを整理していきましょう。
その際、働くという枠を超えてこれから自分がどのような人生を歩めたら幸せなのか、というレベルまで考えることをおススメします。
なぜなら就活のゴールは『入社すること』ではなく、働くことによって『人生が豊かになること』であると私は考えているからです。
- 仕事で何かを成し遂げたいのか
- 給与はそこそこに自由時間を大事にしたいのか
- 便利な都会に住みたいのか、田舎でのんびりしたいのか など
世間の目や体裁を取っ払い、心から望む生き方や働き方がクリアになるほど、自分にとってのベストな企業像が浮かびやすくなります。
自分の軸が見えてきたら、マイナビ等の求人サイトやアカリク等の逆求人サイトで気になる企業を探していきましょう。
興味を持った企業について、自分の軸となるポイントを満たすのか深堀り分析していくのです。
見るべきポイントは事業内容、ビジョン、処遇、勤務地、働き方など、人それぞれ異なるでしょう。
企業分析では企業HPの他、就活会議やOpenWorkなどの口コミサイトで企業のリアルな実態も押さえておきましょう。
4.ESや面接対策は過去レポサイトを参考にする
志望企業が定まれば、エントリーシート(ES)・履歴書や面接の対策もきっちりと行いましょう。
ESや面接では、志望動機や自分がどのように貢献できるかなどを『企業ごと』に『明瞭に伝える』ことがポイントになります。
博士課程を辞めての就活なら、中退の理由も伝える準備が必要です
この際に重宝するのが、過去の内定者のES・面接情報で選考対策ができる「就活会議」や「unistyle」といった過去レポサイトになります。
これらのサイトでは、企業ごとに選考が何次面接まであって、それぞれの面接がどのような雰囲気・形式で何分間行われ、どんな質問があって、それにどのように回答したか等を知ることができるのです。
企業によっては質問内容が例年同じところもあるので、傾向と対策を立てやすくなります。
簡単な登録をすれば無料で使い放題なので、使わない手はないかと思います。
私自身、修士時代と博士時代の就活両方でこれらのサイトに大変お世話になりました
5.就職エージェントを活用する
就職は自分の人生イベントなので、自己分析、企業分析、ES・面接対策、これらは自分の手で主体性をもって行うことが重要です。
とはいっても、全て一人でやるのはとても大変でしょう。
自分の価値観の深堀りややりたいことが何かを考えることも自分一人の視点では限界がありますし、他人の意見で視野が一気に拡がることもあります。
そもそも就職活動自体が初めてで、何から始めればよいかわからない人も多いでしょう。
そんなときは就職エージェントを活用することをおススメします。
就職エージェントでは基本的に自分専任のアドバイザーがつき、上記の作業を含む、就活全般で徹底的にサポートしてくれるのです。
具体的には下記の様なサービスを無料で受けることができます。
特に既卒対象のエージェントであれば大学院中退者のサポート実績も豊富にあり、既卒者ならではの就活ポイント・ノウハウも提供してくれます。
自分で主体的に準備を進めつつ就活のプロの手もうまく活用すれば、自分が納得いく形で就活を終えられる可能性が高まるはずです。
博士課程を中退して就活する人におススメの就活エージェント
就職エージェントを活用したい方に向けて、中退者をサポートしてくれるおススメのエージェントを紹介します
これらを複数併用することで、自分にとっての優良企業に就職できる可能性をさらに引き上げることができると思います。
各エージェントの詳細は下の記事でまとめています。よければ参考下さい。
>>博士課程を中退して就活する人におススメする既卒向け就職エージェント4選
中退にメリットはあるのか
一見ネガティブな印象のある中退ですが、メリットはあるのでしょうか。
私が思うに、中退には以下3つのメリットがあると思います。
メリット1.学費出費がなくなる
中退すれば学費を支払う必要がなくなります。
仮に国立大学のD1で中退すれば、少なくとも2年分の約100万円の授業料は浮かせられます。
また、そもそも博士課程を3年のストレートで修了することは修士以上に厳しいことです。
留年するとそれだけ授業料がかさむことになります。
早い段階で博士課程に見切りをつけられるほど、金銭的負担は減らせることになるでしょう。
メリット2.若い年齢で就活できる
早くやめれば若い年齢で就活に臨めるため、企業が重要視する『若さ=ポテンシャル』を売り出した就活がしやすくなります。
高齢の博士卒よりも他業界・職種での就職もしやすく、社会に出るのが早い分、違う分野でのキャリアを積むことができます。
博士卒後のキャリアをあまり考えず惰性でだらだらと研究するくらいなら、スパっと違うキャリアを築くのもアリです。
むしろやりたいことがあって意欲的な人材なら、仮に中退であってもポテンシャルを見込まれて雇ってもらえる可能性は十分にあります。
メリット3.学位取得のプレッシャーから解放される
中退すれば『学位取得のために成果を上げる』プレッシャーから解放され、精神的に一気に楽になります。
中退を考えている人の中には、研究が進まず成果の重圧の押つぶされそうだけど、中退することへのためらいもあり、なんとか耐えようと苦しんでいる人もいると思います。
毎日、血眼で論文や学会に追われていると「成果だけが全て、研究が全て」という価値観になってしまいがちなんですよね。
でも博士課程まで続けてるからって、別に研究をやめても人生は終わりません。
一度やめると決心するとこれまでの重圧と苦悩から解放されるとともに、視野がひろがり自分の人生を再び歩みだすきっかけもつかみやすくなるかもしれません。
中退のデメリットについて
中退を決断する前に、メリットだけでなくデメリットにもしっかり目を向ける必要があります。
ここでデメリットについても見ていきましょう。
下記の記事では、さらに博士修了のメリデメも含めて詳しく述べていますので、良ければ参考ください。
>>博士中退ってあり?メリット&デメリットと就活のポイントも解説
デメリット1.中退を背負った就活になる
どうしても『中退』というハンディを背負った就活になることは避けられません。
人事にしてみれば、ストレートの新卒者と比べた時に「この学生は入社してもやめるのでは?」という先入観から入ってしまう分、就活では不利になります。
しかしながら、ちゃんと前向きな理由があり、企業でも意欲的に働けることを明確に伝えることが出来れば、きちんと就職はできます。
デメリット2.学校推薦が使えない
中退をすると学校や教授の推薦がつかえないため、基本的に自由応募の形で就活することになります。
理系であれば使えることの多い学校推薦は自由応募よりも内定をもらいやすいため就活では有利になるのですが、中退すると推薦枠による就活ができません。
専攻分野によっては博士卒対象の推薦枠もあるため、博士を修了しておけば使えた推薦カードが使えなくなってしまうというのはデメリットの一つといえるでしょう。
デメリット3.初任給が修士卒相当になる
博士課程を中退すると最終学歴が『修士卒』となるため、初任給は修士卒相当になります。
入社時の給料を上げたい人は
- あきらめず博士課程修了を目指す
- 給料の高い業界への就職を目指す
- 入社までに専門スキルや資格を修得し市場価値を高める
など、いずれにしても相応の努力が必要となります。
とはいいつつも、あくまでも初任給の話。
経験や成果を積み上げれば、最初の数年分の給与の遅れを挽回することは可能です。
中退する前にまず『人に相談』してみてください
とくに研究や人間関係など、何かが辛くて博士課程を辞めたいと思っている方は不安や焦りがおおきく、その時の勢いでやめてしまいたいと思うかもしれません。
本当に切羽詰まってすぐにでも逃げ出さなきゃいけない状況の人もいるので、一概にそれを否定することはできません。
ただ、もしまだ中退するか否かを冷静に検討できる状況なのであれば、ぜひとも人に相談してみて下さい。
いろんな人と話して多様な考え方に触れることで、自分では気づかなかった選択肢に気づくことが多々あるからです。
自分一人で考え込むと気づかないうちに視野が狭まってしまいがちですが、そもそも今の状況を変える手段が『中退』だけとも限りません。
『休学』や『研究方針の軌道修正』など、他の手段が見えるかもしれません。
具体的には
の3者には相談することをおススメします。
教授に相談
博士課程を辞めたいと思ったら、まずは教授に相談してみましょう。
研究進捗や人間関係、就職の不安、雑務等の不満、経済的困窮性、そして教授との相性さえも当人に相談していいと思います。
研究室での悩みは、ボスである教授のサポートや変化で事態が好転する可能性が高いからです。
そもそも、教授は研究者であるとともに教育者です
ダメもとでも、ひとまず相談してみることをおススメします。
身近な家族、友人に相談
信頼できる家族や友人に相談することもおススメします。
これはアドバイスを期待するというより、つらい気持ちを吐き出すことによって気持ちを落ち着かせる意味合いが強いです。
ツライときに自分だけで考え込むのは、ネガティブ思考で頭がいっぱいいっぱいになりやすく、精神衛生上あまりお勧めできません。
信頼できる人に相談することでストレスも減りますし、結果的に視界が広がり、状況が改善しやすくなりますよ。
キャリアアドバイザーに相談
教授や家族に話しづらいこと、第3者であるキャリアアドバイザーに相談してみてください。
大学に設置されている相談室でもOKですし、就職のことなら就職エージェントもアリです。
彼らは、あなたと同じように悩む大学生・院生の相談にのっているプロのアドバイザーです。
悩みに共感するだけでなく、人生レベルでの長期的な視点でキャリアや中退に関して的確なアドバイスをくれるはずです。
就職エージェントであれば、ウズウズ理系やアカリク就職エージェントをおススメします。
この2つは理系・大学院中退者、既卒就活の支援実績が豊富な数少ないエージェントです。
とくに、ウズウズ理系は理系既卒者支援に手厚く、辞めるべきかどうかの相談から親身に聞いてくれます。
>>博士課程を中退して就活する人におススメの就活エージェントにスキップ
まとめ
今回は、博士課程の中退状況や理由について紹介してきました。
もし本当にやめて就職活動に動こうとされる方は以下の記事も参考になるかと思います。
>>博士課程を中退すると就職は厳しい?就職したい人がやるべき3つのこと
最後に今回の記事の内容をまとめます。
- 博士の中退率は5.4%(3000人以上)で、中退理由については【1位】就職 23.98%【2位】一身上の都合 17.06%【3位】学業不振 8.03%【4位】経済的理由 5.42%。
- 就活が不安な人は、既卒対象の就職エージェントや大学のキャリア相談室など、その道のプロを頼ることがおススメ。
- 中退には主に年齢や給料面のメリット・デメリットがあるが、いずれにしても、中退する際には前向きな理由を見出すことが大切。
- 教授や家族、友人に相談することで視野が広くなる。一人で抱え込まず、まずだれかに相談してください!
何かを辞める選択は時としてつらいものですが、新しい何かに踏み出すきっかけでもあります。
人生ではこのような重大な選択が迫られる時が数多くあるでしょう。
今のツライ経験も、将来に似たような状況できっと役に立つはずです(そう考えるだけでも少しは楽になります)
皆さんが後悔ない選択をできることを願っています。
この記事で悩める学生さんの気持ちが少しでも軽くなったら幸いです。
以上です、長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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