こんにちは。
小心者ハカセのただなおです。
博士課程の学生さんの中には、博士号取得後にアカデミックの道に進むか企業に就職するのか頭を悩ませる人も多いでしょう。
今回は、私が大学や研究機関のようなアカデミックではなく、企業の研究者として働くキャリアを選択した理由についてお話します。
博士課程修了後のキャリアパスに悩む方に少しでも参考になれば幸いです。
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私の基本情報
まず初めに私の情報を共有しておきますね。
- 大学院:旧帝大
- 最終学位:工学博士
- 専門:電気電子、材料
- 入社企業:国内の精密機器メーカー
- 企業規模:いわゆる大企業
- 現職種:研究職
それではいきましょう。
まずは結論から
初めに結論から述べます。
では、ひとつずつ説明していきます。
企業への就職を決めた7つの理由
1.元々アカデミックへのこだわりが無い
私は元から研究者への憧れがあったわけではなく、学部3年のときも修士1年のときも就活をしていたくらいです。
博士課程に進学した理由も、博士号をとって研究者として活躍したかったからというよりも、ただ当時のテーマが楽しくて続けたかったから、というものでした。
なので、博士卒後のキャリアを考えるときもアカデミックor企業ではなく、「自分の専門性を活かせること」と「ワクワクするかどうか」が主な軸になっていました。
2.身近にワクワクするロールモデルがいなかった
これはかなり大きな要素です。
私は学部4年から博士課程まで同じ研究室に通い、在籍中に何回か助教や准教授の入れ替わりを経験しましたが、どの先生方にも大変お世話になりました。
ただ言葉を選ばずいうと、私から見るとどの先生もあまり楽しそうに見えなかったのです。
たしかに、研究プロジェクトを立ち上げて研究費をとり、テーマをマネジメントしている姿や、学生の進捗データであれこれ議論する姿は嬉々としているように見えました。
しかし一日の仕事のほとんどは、事務的な書類作成や学部同窓会や学会の幹事、それに伴う人間関係のいざこざやその調整役など、研究以外の業務に追われ疲れているようなのです。
赴任当初はハツラツとしていた先生が年々やつれていき、学生に愚痴をこぼしてしまっている瞬間も何度か目にしました。
日々の大半の時間を過ごすラボで自分がワクワクするようなロールモデルを見出せず、次第にアカデミックの世界から心が離れていったように思います。
3.企業の論文をよんでワクワクした
当時の私の研究テーマは、新素材を基にしたデバイス特性がなぜか劣化してしまう現象について、その原因を明らかにする評価メインの基礎研究でした。
最終ゴールは劣化メカニズムを素材やデバイス作製にフィードバックして性能を高めることですね。
ただ当時は、フィードバックはおろか、実験データに再現性がなく評価手法を見直しているような段階でした。
デバイス性能に活かされるまでの道のりが遥か先の夢物語のように感じられ、自分の評価は本当に意味があるのかと研究意義に疑念すら湧きはじめていました。
そんな折に、似たような実験手法で「劣化機構の解明→素材作製にフィードバック→デバイス性能アップ」と、評価が改善に活かされた、まさに自分が思い描く最高のシナリオで研究成果を挙げる国内企業の研究グループの論文を見つけたのです。
「自分がしたいのもこれだよ、これ!」と見失いかけていた評価屋としてのやりがいを再認識し、奮い立たせてくれました。
系統的かつ丁寧な評価から新しい発見をするだけにとどまらず、それをモノとしての性能に着実に活かしきる技術力の高さに惚れ惚れしてしまい、自分もこのような研究開発がしたいとワクワクしたことをきっかけに、企業の研究に大きく気持ちが傾いたのです。
4.企業の応用研究への興味
私の当時のテーマは基礎研究寄りで、自分の評価で得た成果をデバイス性能にまで活かし、なおかつそれが世に出ていくステージはまだまだ先です。
そもそも、学術的に新しい物理を見出すことに重きを置いている側面が強く、デバイス云々は普段ほとんど考えていませんでした。
とはいうものの自分自身、このような学術的な好奇心をモチベーションにした基礎研究を十分楽しんでいました。
一方で、企業では製品化が比較的近い応用研究が盛んになされています。
3つ目の理由で見た学術論文も応用研究寄りでした。
そのほか企業が刊行する多数の技術レビュー雑誌にも目を通していく内に、世の中の役に立てている実感をより感じられる応用研究だともっとワクワクするのではないのだろうか、という思いが徐々にわいてきたのです。
もちろん、技術レビュー誌には主にうまくいった成果しか掲載されていないのは重々承知です。
それでも、社会で役に立つことを強く意識した『企業での研究』というモノが一体どんなモチベーションで行われ、どのようなやり方で進むのか、という好奇心が膨らんでいるのを感じていました。
5.収入の安定性
アカデミック、特に大学でのキャリアパス形成を考えるうえでは、収入の安定性が一番の懸念点でした。
卒業と共にどこかの助教授として採用されれば比較的給与も良いですがかなりの狭き門で、博士修了者は多くの場合ポスドクとして職を探すことになります。
また、助教もポスドクが基本的に任期は数年という期限付きの採用なのです。
助教授としての採用はコネやポストの空き状況にもよるため運要素がかなり強く、私の分野でもアカデミックに残る人はポスドク採用が多かったです
私自身D2で結婚しており卒業したらすぐにでも子供が欲しいと思っていたので、不安定なアカデミックの道よりも、無期限で安定した収入を得られる企業研究者として働くほうが魅力でした。
6.福利厚生(家族との時間の確保しやすさ)
企業の福利厚生も魅力の1つでした。
なぜなら、わたしにとって最も大事なのは、家族との時間や余暇時間を確保できるか否かだったからです。
もちろん研究で得られる楽しさややりがいも人生を豊かにしてくれる要素ですが、研究は家族と幸せに暮らすための一手段という側面が強いのです。
企業も大学も労働基準法に基づく勤務体系は制度上おなじですが、大学の場合、本業(研究)以外に講義や学生指導、入試やオープンキャンパスの対応、ボランティア同然の論文査読など、一人当たりの業務量が多すぎるように見えます。
働き方も個人の裁量にゆだねる裁量労働制が多く、残業代はゼロにもかかわらず特に成果必須の若い教職員ほど残業は日常茶飯事です。
対して企業の場合、生産性向上の機運の高まりもあり(もちろん企業にもよるでしょうが)残業は少なく有休は多くとることを促されます。
また、個人の成果よりもチームとしての成果が強調される文化が比較的強く、誰かが過労働になるような状況はむしろ良くないとされます。
上司のマネジメントに責任が問われる風潮も、大学よりもずっと企業の方が強いと思います
これらを考えた結果、企業で働く方が、家族との時間を大切にしたい私の生き方を実現しやすいと思いました。
7.産学連携によりアカデミックとの繋がりを保てる
私の研究分野は近年、いくつかの企業と大学が手を組む、いわゆる産学連携の共同プロジェクトが徐々に増えつつありました。
実際に、企業の研究者が大学の特任教授や特任准教授として大学に任期付きで働いている人もいました。
仮にアカデミックを離れたとしても産学連携を活発に行う企業に入ってチームに配属されれば、企業にいながらにしてアカデミックとのコネクションを保てるうえに基礎研究よりの仕事も可能だと考えました。
産学連携をしている企業選びや、今後もそのテーマが継続されるのかなど事前にしっかりと情報を集めて就活すれば、運と縁と自分の努力次第でそのような美味しいとこ取りもできると思ったので、ひとまず企業に就職しようと決めました。
多少の偶然も重なり、結果的に博士卒の入社1年目にして狙っていた産学連携プロジェクトのチームに配属されました
アカデミックとの繋がりを残したい博士学生さんへの就活アドバイス
私は上記の理由により企業への就活を始め、最終的に第一志望の企業に内定をもらい、1年目から産学連携チームで大学の先生と共同研究をさせてもらっています。
あるていど戦略的に就活を進めていたところもありますが、就活を始める前に意識せず行っていたことが巡り巡って今のご縁に結び付いていることもありました。
それを踏まえ、就職後もアカデミックとの繋がりを残したい博士学生さんにしたい就活アドバイスが4つあります。
学会で積極的に質問、名刺交換、交流会に参加をする
企業にもアカデミックにもたくさんコネクションを作ろう、ということです。
私の経験上、企業で専門性を活かしたい博士学生さんにとってコネは非常に重要です。
就活時に、名刺交換していた企業の研究者にお話をうかがったり、コネを辿って気になる企業の研究者とつなげてもらったりと、学会でネットワークを拡げていたことがきっかけで、企業の研究事情について深く聞き出せるに至ったことが多々ありました。
また就職して配属された後にも、研究者ネットワークが活かされることもあります。
私の場合、配属部署にたまたま学会で交流していた方がいらっしゃったこともあり、1年目にして専門分野の産学共同プロジェクトメンバーに抜擢していただけることになりました。
なので、学会では自分と近い分野の発表をしている企業の方や先生には積極的に質問をしたり、名刺交換をして顔を拡げておくことをおススメします。
学会の固い場が苦手なら、交流会という名の飲み会の場でお酒の勢いをかりて積極的に話しかけてみて下さい!
向こうも酔っているので喋りやすく、中には、ハマるとその後も学会の度に声を掛けて下さる方もいらっしゃいます。
できるだけ早い時期にオファー型就活サイトのプロフィールを完成させる
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私は内々定を得た後にこのサービスがあることを知り、知ってたらもっと楽に進められたろうなぁと悔しい思いをしました
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気になる企業の研究者に積極的にアプローチして先端研究事情を聞きだす
就活サービス等で気になる企業を見つけたら、一般向けの説明会以外で、ぜひとも所属する研究者に連絡して企業の先端研究事情を聞いてみることをおススメします。
分野の研究プロジェクトの今後の見通しや、博士人材の配属状況、産学連携プロジェクトなど、あまり公にされていない情報を聞き出せるチャンスが高いです。
企業に就職しても自身の専門性を活かせるか否かはこの情報収集がカギだと言えます。
ここで学会等でできた繋がりが大いに活かされるわけです。
直接知り合った研究者や、大学のOBや、仲良くなった他大の先輩博士の知り合いの企業研究者を紹介してもらったりと、なり振りかまわず情報を取りに行きます。
私は、同大学出身のOB訪問には「ビズリーチ」や「Matcher」なども利用してできる限りで情報を集めました。
もちろん利用は無料ですので気になる方はぜひ活用してみて下さい。
ちなみに、私が実際に使っていた、博士の就活に役立つおススメのサービスや、私の実際の就活戦歴をについてまとめていますので、気になる方はぜひ。
最後に
いかがでしょうか。
この記事では、工学博士卒の私が、自分の専門性を活かしてアカデミックともつながりを残しつつ企業の研究者としてキャリアを築こうと決めた理由についてお話しました。
また自身の経験を踏まえて、私同様に企業に勤めつつアカデミックとの繋がりを残せるようにするための就活アドバイスをさせていただきました。
最後に、企業研究者を選んだ理由をまとめておきます。
以上です。この記事が少しでも悩める博士学生の役に立てば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました!
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